英語の聞き流し?いやぁ、そりゃちょっと・・・

英語の聞き流し?いやぁ、そりゃちょっと・・・

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聞き流しでは英会話力の向上は期待できません。
聞いている内容に注意を払うことがリスニングを効果的に行うためのカギです。
そのためには英会話力を身に付ける必要がある環境に自らを置いたり、興味のある内容を選んだりしましょう。
また、音源は自らのレベル合ったものを選び、それを繰り返し聞くことも重要であります。


聞き流しで英語が上達?

英会話を学ぼうとする人が最初に行うことは何でしょうか?
現在であれば、大体の人はまず友人に訊くか、インターネットで調べるか等のことをするでしょう。
(あなたがこのページに辿り着いたのもその流れかもしれませんね)
その結果、中には「英語を聞き流すだけ英会話ができるようになる」という趣旨の情報に触れて、リスニングを始める人もいることでしょう。
しかし、「聞き流す」だけで英会話力やリスニング力を向上させることはほぼ不可能であると言っても過言ではありません。

「いや、あの人は聞き流しで英会話力やリスニング力が上がったって言っていたけど」

確かにそういう人はいるでしょう。でもその人は聞き流し以外にも何かやっていたか、そもそも「聞き流し」ていないのです。

これはどういうことでしょうか?

後に説明します。でもその前に・・・

そもそも「聞き流し」って何?

そもそも「聞き流し」って何なんでしょうか?
いちいち説明する必要もないかとも思いますが、一応私がここでいう「聞き流し」とは何かということを明確にしておきます。
聞き流しとは、ただ英語の音声が裏でBGMのように流れていて聞き手がその音声に対して全く注意を払っていない状態、を指します。
だから聞いているのか聞いていないのかもさだかではないです。たまにちょろっと単語や知っているフレーズが耳に入って来るかもしれませんが、能動的に聞いている状態ではありません。
完全に受動態で、聞く努力をしていない状態です。

聞き流しにも一応利点はある

ちょっと視点を変えます。
聞き流すことにより英会話力やリスニング力を向上させることはほぼできませんが、利点もあるにはあります。
ただ、そのためには英語のみがある程度まとまった形で流れている音声を聞かないとほぼ意味がありません。
英語と日本語が交互に流れている音源ではその利点は得にくいでしょう。

リズム感がつかめる

英語には日本語とは違うリズム感があります。
このリズム感は口では説明できませんが、聞き流すだけでも、ある程度掴むことができます。
私は現在第三カ国語としてスペイン語をざっくりと勉強しています。でも本当にざっくりとです。だからど素人のど初心者。まだ全然会話もできません。
だからリスニングをしても、ボキャブラリーがほとんどないから、何を言っているのかちんぷんかんぷんです。それでも何となく、リズム感みたいなのはつかめてきた感じがあります。
もちろんこれだけでしゃべれるようになれるわけはありませんが。

英語に対する親しみが生まれる

聞き流す感じであったとしても、英語を聞くのが習慣化されていれば、英語に対する親近感が生じます。
全く英語のない生活と比べれば、英語が身近にあるという点では利点であると言えます。
これは意外と重要です。
英語を苦手とする人は、過去に何かしらの経験があってか、英語を聞くのも嫌だ、という人もいます。
そこで英語を聞き流すことにより、苦手意識が少し薄れる効果は期待できます。
もちろんこの親しみだけでは英語ができるようになるわけではありませんが、人によっては全く無駄であるとも言えません。

あれ、タイトルで「聞き流し?いやぁ、そりゃちょっと・・・」とか言っておきながら、いい点もあるなんて。
まあまあ、いいじゃないですか、タイトルは人目も惹かないと、ね。

聞き流しでは英語が上達しない理由

英語を聞き流すだけで英会話力やリスニング力が向上することはありません。
この説明をするために少しだけ脳科学の力を借りて、人が生まれてから成長するにつれて、どのように学習の仕方がかわっていくかを述べます。
(なお、当記事で述べる脳科学についての話は記事の最後に参考文献を載せましたので興味ある方はどうぞ。適当に言っているわけではなくて、きちんと専門家の研究に基づいて書いています)

いわゆる聞き流しでも物事を学習する時期 Critical Period

母国語を身に付けるのに苦労する人はまれです。
この記事を読まれているほとんどの方は恐らく日本語が母国語だと思います。
そこで、ここで少しだけあなたの記憶をさかのぼって幼少期を思い出してみてください。
日本語をしゃべり始めた時、どうやって日本語を身に付けたか思い出せますか?
恐らく覚えていないでしょう。気づいたらしゃべっていた、というのが実際だと思います。

小さい子供が母国語をしゃべり始める時、単語帳を見て勉強したり、文法を勉強したりしている子を見たことはありません。
まあ、フラッシュカードで遊ぶ子とかはいると思いますが、どちらかというと覚えるというよりは遊んでいる感じですよね。

幼少期に触れる母国語であれば勝手に身に付きます。
傍から見れば、特に苦労なく、勝手に覚えているように見えます。
まるで常に環境に流れている母国語を「聞き流している」だけで覚えているようにすら映ります。

では子ども達は周りの大人たちの会話をただ「聞き流している」のでしょうか?
違います。
大人からは想像できないと思いますが、子どもたち周りで起きている出来事を漏らさずどんどん吸収していっているのです。
この勝手にどんどん吸収する時期を英語ではCritical Period(直訳:重要な時期)と呼んでいます。
言語にとってのCritical Periodは幼少期から思春期くらいまで続くと言われています。
この時期の子どもの脳では大変なことが起きています。
専門的なことを抜きに平たく語ると、脳の中の学習スイッチが常時オンになっているのです。常時目の前で起きている出来事に対して半端じゃない注意を払っているのです。
私も息子を含めて子どもたちに英語を教える機会がありますが、物凄い吸収力です。
こういった観点から見ると、子どもたちは周りのBGMのようなことでも「聞き流し」ていないことが分かります。
子どもは聞き流そうと思っても、聞き流せないのです。勝手に注意を払ってしまうのです。全然聞いていないようでも、しっかりと聞いています。
人は生まれてからしばらくの間は、周りで起こる出来事の中で何が重要で何が重要でないか、という区別がつきません。だから、とりあえず全て吸収しちゃえ、と、学習スイッチが常時オンのままになっているのです。

この時期であれば、苦労なしに言語学習ができますね。どんどん「聞き流し」て行けば、ガンガン向上します。

ただ、実際に子どもたちの姿を見て行けば分りますが、しゃべる内容は子どもの身近にあるわかりやすい内容から話し始めます。
「お腹が空いた」「あっ、飛行機」「嫌だ」「ご飯」等。
子どもの時からいきなり難しい抽象的な哲学の話などの話をする子どもは基本的にはいませんね。
本人にとって関係のある内容や5感で感じ取れる内容について最初は話します。
そして、これが不思議なことなのですが、例えば絵本を読んであげて、子どもにとってその段階ではすぐにピンと来ないような抽象的な表現が含まれていても、その表現をなんだかんだ吸収していきます。
意味はすぐに分かりませんし、子ども同士の会話で使わないかもしれません。しかし、その後人生経験を積んでいくにつれて、意味が明確になり、普通に使えるようになります。当の子どもが大人になった頃に、「なんでそもそもこういう抽象的な表現が使えるようになったんだろう?」と考えても分からないような事のそもそものきっかけは子どもの頃に親に読んでもらった絵本だった、ということもありえるということです。

Critical Periodが終わったら事情が変わる

しかし、しかしですよ。このCritical Periodは思秋期くらいで終わってしまいます。
脳が自らこの時期を終わらせるのです。深いことは私もわかりませんが、そのようにした方が脳にとっては都合がいいようですね。

そうすると事情が変わってきます。
聞き流すだけでは物事が吸収できなくなってくるのです。
常時オンになっていた学習スイッチが、デフォルトではオフの状態になります。
つまり大人は子どもとは違う、ということです。

大人には大人の学び方があるのです。

リスニングを効果的に行うには「注意を払って」学習スイッチをオンにする必要がある

リスニングはスピーキングの基礎です。大量のリスニングを抜きにして、英会話を学ぶのは効率が悪すぎます。
例えば週一回英会話スクールに通って、学校以外では何もしないで英会話力を上げようとしてもなかなか伸びを実感できないでしょう。「1年間通ったけどあまり効果は実感できなかった」と言って、辞めるのが関の山です。

繰り返します。リスニングはスピーキングの基礎です。本当に英会話力を身に付けたいのであれば、絶対にこれを抜きにしないでください。

さて、リスニングが重要であるとは言っても、ここまでに述べてきたように聞き流すだけでは意味がありません。
聞いている内容を吸収できなければ意味がないのです。
吸収するためには脳の学習スイッチをオンにしてあげる必要があります。
そのスイッチをオンにする方法が実は「注意を払う」ということなのです。

「注意を払う」とは

注意を払うとは一体どういうことでしょうか?
それは聞いている内容を集中して聞いている状態を指します。
本当に一字一句漏らさない、という姿勢で聞くのです。

人は衝撃的な出来事があると、覚えていますね。それはなぜでしょうか?
それはその出来事にものすごく注意を払ったからです。
例えば、自動車事故に遭ったことがある人であれば、結構鮮明にその時の流れを覚えているのではないでしょうか?
これはその時に生命の危機を感じて、起こっていることに注意を払っていたからです。
何かに注意を払うと、その対象を学習して、脳が変わります。
大人になってからでも、何か強烈なトラウマ体験をすると、それ以降人格が変わる人もいます。その結果なかなか治らない精神的な病を患う人もいます。これはその出来事を体験していた時に、その体験に注意を払っていたからです。

何かに注意を払うと、一時的に幼少期のCritical Periodの時と同じように脳の学習スイッチがオンになります。だから注意を払ったことは覚えているのです。
ただ、注意を払うと覚えると言っても、注意の払い方にも強弱がありますので、覚え方にも強弱があります。誰かに電話をかけるために一時的に覚えた電話番号は、その後何度も同じところに電話したり、繰り返し復習したりしないかぎり、かなり早い段階で忘れます。それは電話をかけた後、いちいち頭の中で番号を繰り返し復習しないから、記憶に定着しないためです。
一方、自動車事故などのより感情が動く体験はそれだけ強烈に注意を払うため、なかなか忘れられません。それは脳の中で何度もその体験をリプレーすることになり、それが復習していることに該当し、定着します。

注意を払うには

注意を払うことが重要であると分かったとしても、どうすれば注意が払えるようになるのでしょうか?
それは逆にどのようなことに対して私たちが注意を払っていないかということを少し考えれば、その逆のことをすればいい、ということが見えてきます。

私たちは、自分にとって関係のないこと、関心のないことには注意を払いません。
逆に言えば、自分にとって関係のあること、関心のあることであれば注意を払います。
これが答えです。

ここまでの内容を踏まえて効果的なリスニングを行うには

ここまでに述べた内容を踏まえて効果的なリスニングを行うにはどのようなことを具体的に意識すればよいのでしょうか?
以下にいくつかポイントを述べます。

自分にあったレベルの音声を繰り返し聞き、徐々にレベルを上げていく

まず、これは大前提の話になります。
後に改めて述べますが、リスニングしている内容に注意を払うにはそれが自分にとって必要である、もしくは興味のあるものである必要があります。
しかし、いくら自分が英会話力や総合的な英語力を上げる必要にあるような状態にいても、興味のある音源を聞いていても、それが難し過ぎては注意をいくら払っても内容が理解できません。
それどころか、頑張れば頑張るほど疲れます。
聞いている内容の九割以上は辞書を引かないで理解できるものを聞くのが理想です。
これ以上難しいと効果がなかなかでません。
英会話力は基礎が大事です。基礎は自分のレベルにあった音声を大量に聞くことによって築き上げられます。

この学習法は子どもたちが言語を学んでいく過程に似ています。
子どもたちは生まれた時から親に簡単な言葉で毎日語りかけられます。
単純な言葉、平易な言葉を何度も何度も毎日聞きます。
これが実は基礎を作り上げているのです。
そしてその基礎を土台をとして少しずつボキャブラリーが増えていき、いずれ大人になっていくのです。

今まで英語を教えていて感じることなのですが、英語が伸び悩んでいる人の多くは背伸びをしすぎである感が否めません。
本当はまだネイティブの小学生が話す内容も理解できないのに、いきなり大人が聞くようなニュース番組ばっかりリスニングしていたりします。
内容が分からないから結果的にただの「聞き流し」をしている状態になっているのです。
これではあまり意味がありません。
人によっては、あえてリスニングしている内容のレベルを下げたほうが伸びます。
本当に自分のレベルにあった音源を聞いていくことができればぐんぐん伸びていくことを実感できるでしょう。

英会話力を上げる必要がある環境に身を置く

これは掲題のままです。
例えば仕事で英語を使わざるを得ない環境に身を置く、外国へ留学すると決める、ネイティブの恋人・友人を作る等。
リスニングしている内容を聞き流している余裕がない状態に自らを置くことです。
人によって少しストレスフルな状態になるかもしれませんが、注意を勝手に払うようになるでしょう。

少し個人的な話をさせてください。
これは直接リスニングの話ではないのですが、共通点があるため紹介します。
私は現在職業訓練校で英語の講師をしています。
知人の紹介からやることになったのですが、やると決めた段階で私は英語ネイティブではありますが、全く文法の知識がありませんでした。
「名詞ってなんだっけな?」「副詞? うーん・・・聞いたことすらないな」という状態です。一応文法に関しては学校で英語で学んではいましたが、全然覚えていませんでしたし、日本語の用語なんて全く分かりませんでした。
「まあ、何とかなるだろう」と軽い気持ちで仕事を引き受けたのですが、やり始めて気付きました。多くの日本人の方は文法用語をベースに話をするし、質問される内容もいつも文法用語が混ざっているではないか、と。
最初の内はだましだましやっていましたが、このままではまずいと思い、まずは中学生向けの文法書を買い毎日勉強しました。その結果、数週間ほどで一通り基礎文法は身に付きました。
もちろん英語そのものはできたから、あくまで知っている英語を文法的観点から見るとこうである、ということを学んだだけだから、すぐに覚えられたんだとは思います。が、必要性に迫られていなければ無理だったと思います。

必要性があると本当に人はすごい力を発揮しますよね。これは誰でも多かれ少なかれ経験のあることだと思います。それをただ英語学習に当てはめればいいだけです。
仕事に例えれば、英会話力がついてから英語を使った仕事をするのではなくて、英語を使った仕事をやるから英会話力がつく、という発想です。

興味のある内容を聞く

興味のある内容でなければ聞きたいと思いませんよね。
必要性に迫られてやるのももちろん大事なのですが、仮に今すぐに必要性のある環境に身を置く予定がしばらくないけど、将来に必要になる時に備えて英会話力を付けたい人もいるのではないでしょうか?
あるいはただ単に英会話をネイティブの人たちと気楽に楽しみたい人もいるでしょう。
こういった必要性に迫られていない状態の人にとってはとにかく興味のある内容を聞くことをお勧めします。
とにかくアンテナを伸ばして、情報を集めて、興味のある内容について語っている音源を探してください。
興味がある内容であれば、先を知りたいとの思いが湧き起こり、自然と注意を払います。

<まとめ>

ということです。
聞き流しでは英会話力の向上は期待できません。
聞いている内容に注意を払うことがリスニングを効果的に行うためのカギです。
そのためには英会話力を身に付ける必要がある環境に自らを置いたり、興味のある内容を選んだりしましょう。
また、音源は自らのレベル合ったものを選び、それを繰り返し聞くことも重要であります。

Peace

脳科学の話に触れた際の参考文献:
英語版
Doige Norman, The Brain That Changes Itself. (New York: Penguin Books, 2007)

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